BCG Revaccination for the Prevention of Mycobacterium tuberculosis Infection
N Engl J Med 2025;392:1789-800.
を解説していきます
臨床の現場に立つあなたへ
以前の小さな研究では、BCGをもう一度接種することで結核菌への感染を防げるかもしれない、という希望がありました。しかし、今回のより大規模で厳密に行われた臨床試験では、その効果は確認されませんでした。
対象は、10~18歳の健康な若者たち。QFT検査が陰性で、HIVにも感染していない子たちです。BCGを再接種しても、時間がたっても感染状態が続くかどうかにはほとんど差が見られなかったんですね。つまり、「BCGをもう一度打っても、感染の継続は防げない」という、はっきりした結果が出たわけです。
副反応としては、これまでのBCGと同様、打った場所が腫れたり赤くなったりすることはありましたが、重い副作用は少なかったとのこと。とはいえ、感染を防ぐ効果が弱いなら、わざわざ打ち直す意味があるのかという議論が出てくるのは当然です。
患者さんへ
この研究では、すでにBCGを打ったことがある10歳から18歳の子どもたちに、もう一度ワクチンを接種して「結核菌に感染した状態が続くのを防げるか」を調べました。
結果は――残念ながら、もう一度BCGを打っても大きな効果は見られなかったというものでした。注射した場所が腫れるなどの反応はありましたが、危ない副作用は少なかったようです。
ただ、ここで注意してほしいのは、この研究が調べたのは「感染が続くこと」であり、「結核という病気になること」を防げるかどうかまでは分からないという点です。つまり、病気を防げるかどうかは、まだはっきりしていないのです。
批判的吟味
今回の研究は、これまでに期待されていた「BCGを打ち直すことで結核を防げるかも」という仮説を、より多くの人数・広い年齢・幅広い地域で検証した、いわば「再確認」のような役割を持つものでした。
注目すべき点は:
- 参加人数が多く、結果に信頼性がある
- 分析方法もしっかりしていて、結果はかなり明確だった
- ワクチンを打った人とそうでない人で、「持続的な感染」の起こる割合にほとんど差がなかった
一方で、注意しておきたいのは次の点です:
- BCGを打つと皮膚に特有の反応が出るので、「誰がワクチンを打ったか」が途中でバレてしまったかもしれない(本来は知られないようにするのが理想)
- 調べたのは「感染が続くかどうか」であって、「病気を防げるか」までは分からない
- 実施された時期には新型コロナの影響(ロックダウンや学校の閉鎖)もあり、結核菌に触れる機会そのものが減っていた可能性もある
さらに、同様の結果はブラジルで行われた別の研究(医療従事者を対象)でも出ています。つまり、世界的に見ても、BCGをもう一度打つことで感染を防ぐ、という期待は弱まってきているといえます。
では今後はどうなるのか。いまインドで進行中のように、「病気の発症」そのものに対するBCG再接種の効果を調べる大きな研究が出てくることが期待されています。最終的な答えは、まだこれからかもしれません。
まとめ
BCGをもう一度打てば結核菌の感染を防げる――その期待に対し、今回の研究は「ノー」と答えました。ただし、「病気を防げるかどうか」というもっと大事な問いには、まだ決着がついていません。
将来に向けて、より精度の高いワクチンの開発や、結核の予防策をどう設計するか。今回の結果は、その道のりに必要な「通過点」といえるかもしれません。
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